インド新幹線(ムンバイ-アーメダバード間高速鉄道)事業とは何か?

(1) 「インフラシステム輸出戦略」とは、海外のインフラ需要を日本が官民一体となって取込むことを目的とし、そのためにODA(政府開発援助)等の公的資金で日系グローバル資本を徹頭徹尾支援する戦略である。
その代表プロジェクトの一つがインド新幹線(ムンバイ-アーメダバード間高速鉄道)事業である。これは、「インド鉄道ビジョン2020」のインド高速鉄道計画(後述)のうち、インド西部のマハラシュトラ州ムンバイとグジャラート州アーメダバード間をつなぐ高速鉄道事業であり、ムンバイ-アーメダバード間に12駅を配置し、最高時速320キロで走行、508㎞を最短2時間7分で結ぶという計画である。路線は、ほぼ高架あるいは地下となり、車両や運行システムは日本の新幹線方式を採用し、JR東日本が東北新幹線で走らせるE5系はやぶさが導入予定とされる。当初の調達車両数は10両24編成を計画している。総工費は約9,800億ルピー(約1兆7,640億円、1ルピー=1.8円、以下同じ)を見込み、用地取得費用などを除く工費の81%は日本政府[国際協力機構(JICA)]によるODA(円借款)で賄われるとされている。なお、円借款の供与条件は、償還期間50年、据置期間15年、利子率年0.1パーセント、調達条件はタイド(日本系企業の受注を条件)である。
予定される運賃は、ムンバイ-アーメダバード間で3,000インドルピー(約4,800円)であるが、事業費用回収のために設定されたこの価格は、インドの実態からみて高額すぎて現実的ではないとする指摘がある。また、当初計画では事業開始は2023年12月とされていたが、後述するように大幅な遅延見込みと事業費の膨張が報道されている。
(2) 「質の高いインフラの旗艦事業」と言われる本事業は、後述するようにインド市民のニーズに応えるものではなく、採算を取るように計画されたものでもない。事業は、自然環境の破壊や沿線住民の非自発的移住などの諸問題を引き起こすとともに、事業の赤字や負債は将来にわたってインド市民に課せられる。「インド新幹線事業」の大幅な遅延は、計画自体が事実上頓挫していることを表している。この章では、主として本事業のフィージビリティスタディ(実現可能性調査:F/S)の最終報告書(以下、F/S報告書)の分析を通じてインド現地での反対運動を理論的に支援してきた、インド民衆運動全国同盟(NAPM)から発行されている小冊子「ムンバイ-アーメダバード高速鉄道(新幹線)民衆の批判」及び私たちが独自に行ったF/S報告書の分析を通じてこのことを明らかにしたい。

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